頭がいい人の英語の話しかた


英語でも「この人は頭がいいな」と思わせる話し方がある。「正しい発音とイントネーション」や「豊富な語彙力」など、英語の「器(うつわ)」が熟達しているのはもちろんのこと、「総論から各論」「仮説と検証」「原因と結果」といった論理的かつ体系的に「中身」が話せることが条件になるだろう。

「容器」と「内容」が両輪となって頭がいい話し方が成り立っているというのはどの言語にも当てはまることだが、日本語と違い英語に広く浸透しているのが「"oxymoron"=撞着(どうちゃく)語法」と呼ばれる修辞法だ。「矛盾語法」と訳している辞書もある。

知り合いの甥にあたるアメリカ人中学生(当時14歳)が"oxymoron(オクシモロン)"という単語を初めて習ったと話していたのを聞いたことがある。宇多田ヒカル(当時16歳)も1999年8月2日の投稿でoxymoron(オクシモロン)についてブログで紹介している。アメリカ人なら一般的に10代で習う言葉のようだ。
「撞着語法」(oxymoronを英和辞書で調べたら「撞着語法」って出てたんだけどあってるのかな?)
引用元:www.utadahikaru.jp/from-hikki-bn-e/both/1999/002108/index.php(現在はリンク切れ)

日本の中学生で「撞着語法」を知っている人がどれくらいいるだろうか?大人ですら知らない人が多数派だろう。

しかしアメリカでは、一般的アメリカ人でも日常会話で普通に"That's oxymoron"(あれは撞着語だ)とか、"It's oxymoronic...(それは撞着語的だ)"と使っているのをよく耳にする。oxymoronic(オクシモロニック)はoxymoron(オクシモロン)の形容詞。

日本語による説明はこうだ。
撞着語法 
お互い背反する二つの真理をつなげる用法。一つの語句となっている例も多い。 
    引用元:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BF%AE%E8%BE%9E%E6%8A%80%E6%B3%95 

    撞着語法の効果 
    撞着語法を用いて、受け手に強い違和感を与えることで、言及している内容への興味を誘引したりすることができる。 また、敢えて矛盾した語を以って対象を説明することにより、対象への皮肉としての効果をもつ場合がある。 一方で、一見「深い意味や含蓄のある」ように見えて、内容の伴わない単なる言葉遊びに終始してしまう恐れがあるため、注意が必要である。
    引用元:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%92%9E%E7%9D%80%E8%AA%9E%E6%B3%95 

    日本語でも「必要悪」「急がば回れ」「負けるが勝ち」「無知の知」などの慣用表現でよく使われている語法ではある。しかし英語では、日本語よりもさらに一般に広く浸透して使われていると思ってほしい。

    また、oxymoron(オクシモロン)は意図的な修辞法としてではなく、矛盾して非論理的な表現を揶揄する意味でも使われる。

    例えば、この文章でおかしな箇所はどこだろうか?

    「Let's use plastic glasses at the picnic.(ピクニックではプラスチックのグラスを使おう)」

    「グラス(glasses)」は英語でも「コップ」の意味で使われるためアメリカ人でも犯しやすい間違い。グラスはガラスでできてるからそう呼べるのであって、プラスチックでできていればカップ(cups)と呼ぶべきだ。Plastic glassesなどと言っては、賢いアメリカ人に"That's oxymoron!"と訂正されるかもしれない。

    アルバイトをしながら海外生活を楽しむ「ワーキング・ホリデー(a working holiday)」もoxymoron(オクシモロン)だということに気がついているだろうか?ワーキング・ホリデーは、work(仕事)とholiday(休暇)という相反する二つの単語を組み合わせて構成されている。これに違和感を感じない人は、英語に対して鈍感だ。

    "It is your only choice"というのもよく聞く表現。しかし、チョイス(選択肢)は複数あって初めて選択肢と呼べるのであって、それ以外選びようがない唯一の(only)ものである場合は選択肢とは本来呼べない。

    また、冒頭にあるNYPDの警察官のユニフォームにoxymoronの表現が含まれているのがわかるだろうか?


    "Disorder Control Unit"

    Disorderは「騒動、混乱、無秩序」の意味。そしてControlは「制御する」の意味。「無秩序を制御する部隊」とはまさにoxymoron(オクシモロン)だ。これに気づいて小馬鹿にするアメリカ人もいるくらいだから、賢いネーミングとは言えない。

    これも実際のビルボード看板に書かれたメッセージ。

    "Illiterate? Write for free help." (文盲ですか?無料支援を受けるためにお手紙を下さい)

    Photo courtesy:http://www.funnysigns.net/illiterate-write-for-help/

    Illiterate(文盲)なのにwrite(手紙を書いて)無料支援を受けるよう促すとは、あまりにひどい看板だ。これも知的レベルが低い人が考えたoxymoron(オクシモロン)の表現。

    これもなかなかの看板だ。カリフォルニア州Death Valley(デスバレー)にあるヘルス・センターの看板。死(death)なのに健康(health)とはまさにoxymoronic(オクシモロニック)。

    Photo courtesy:https://www.pinterest.com/pin/232005818274322735

    これは「清潔な土あげます」という張り紙。Dirtは「土・土壌」という意味もあるが、「(不潔な)汚物」という意味にもなる。「クリーンな汚物」とは笑ってしまう。正確に書くなら、"Clean Soil"とするべきだ。もしくは、笑われるのを狙ってわざとDirtと書いたのかもしれない。

    Photo courtesy:wordsbybob.wordpress.com

    意図的なoxymoron(オクシモロン)表現はウィットに飛んだ知的な印象すら与えるが、知らず知らずのうちにoxymoronic(オクシモロニック)な英語を使っていると、英語に対する感度が悪いと思われるので注意が必要だ。だからこそアメリカの英語の授業では、わざわざ時間を割いてoxymoronic(オクシモロニック)な英語表現を考えさせるトレーニングを行なっている。oxymoron(オクシモロン)を意識してうまく逆説的表現を使いこなせるようになれば、英語の話者としてのレベルが何倍もアップすることは間違いない。

    最後に、私がお気に入りのoxymoron(オクシモロン)表現を紹介しよう。これはあまりにも有名な英語表現で、マーク・トウェインが言ったともブレーズ・パスカルが言ったとも言われている。
    If I had more time, I would have written a shorter letter.
    もっと時間があったなら、私はもっと短い手紙を書いていただろう。

    もっと時間があれば、熟考を重ねてより簡潔で手短な手紙が書けていたが、時間がなかったために無駄に長文になってしまったという断りの一文だ。なんと知的で流麗なoxymoron(オクシモロン)表現!


    Photo courtesy: RJ via CC 2.0

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