日本語の「ショック」は英語の"shock"のニュアンスとは微妙に違う


トランプ政権のロシア疑惑に関連して、突然解雇された元FBI長官のジェームス・コミー氏が今日、議会で証言した。アメリカのニュース番組はこぞって実況中継し、ニュース記事も速報を伝えたが、一言でその内容を説明するキーワードは「ショック(shock)」だろう。事実、速報を伝える新聞記事の見出しには「ショック(shock)」という単語が踊っている。

Here's the real impact of Comey's shocking testimony
  
『コミー氏のショッキングな証言がもたらすリアルなインパクト』

Warner to call Comey’s firing ‘utterly shocking’  
『ワーナー議員がコミー氏解雇を「全くもってショッキング」と発言』

8 Shocking Things From Former FBI Director Comey’s Testimony  
『前FBI長官コミー氏証言からの8つのショッキングな事柄』

Answering Feinstein, Comey says Trump request ‘shocked’ FBI leaders  
『ファインスタイン議員への回答で、コミー氏はトランプ氏の要請がFBI幹部たちにショックを与えたと証言』

「ショック(shock)」は日本語でもよく使うため、英文で"shock"や"shocking"と出てきたら、自動的に「ショック」や「ショッキング」と訳してしまう人も多い。しかし日本語の「ショック」は、英語本来の意味とは微妙に違う。

日本語で会話をする際、どのような場面で「ショック」という言葉を使うだろうか?ツイッターで最近どのような使われ方をしているか見てみると、東日本でカールの販売が中止されるというニュースにショックだという投稿が目立つ。




こういう使われ方を見ると、日本語で「ショック」と言う場合、「驚き」の意味が強いように感じる。「軽くショック」は「軽く驚いて残念」と言っても意味は通る。

しかし英語の"shock"は、"cause (someone) to feel surprised and upset"、つまり『(人を)驚かせると同時に狼狽させる』ことであり、単なる驚きを意味する言葉ではない。そのため、「軽くショック」などと言う言い方自体が矛盾しているのだ。軽いショックなど存在しない。ショックは必ず狼狽させ、動揺させるような重い感情なのだ。

カールの販売が停止されたニュースを聞いて、どれほどの人が冷静さを失うほど動揺しているだろうか?

日本語の感覚で、"I'm shocked with the news that corn puff snack Karl will no longer be sold in eastern Japan."(カールが東日本で販売中止のニュースを聞いてショック)"と言うと、それを聞いたアメリカ人から、「スナック菓子の販売中止くらい、そんなに冷静さを失うほど動揺するようなニュースでもないのに大げさな人だな」と思われてしまうので注意が必要だ。むしろ、日本語で「ショック」と言う場合は、英語に訳すと"disappointed"(残念に思う)という感情の方が近い。カールのニュースも、"shock"ではなく"disappoint"を使って、"I'm disappointed with the news that corn puff snack Karl will no longer be sold in eastern Japan."と言った方が正しく伝わる。

そして翻って、全米のメディアが今日のコミー氏の証言を「ショッキング」だと報じているその真意は、「ショッキング」という日本語一言では言い表せないような、動揺と狼狽、そして冷静さを欠くほど気を動転させるような深刻な感情を伴っているのだ。


Photo credit: FBI, via wikimedia commons

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