日本の奨学金とアメリカの奨学金の違いは?
アメリカの奨学金制度に慣れた人にとって、日本で奨学金の受給が社会問題になっているというニュースはとても違和感を覚える。日本の奨学金は、アメリカの奨学金とは全くの別物だからだ。
日本の奨学金のさらに細かい内訳を見ると、大学4年間の奨学金(2016年度)の平均利用額は次の通りだ。
無利子 50万人 平均237万円
有利子 81万人 平均343万円
(日本学生支援機構の利用者)
奨学金が返済できない人が増えているという社会問題を解消するため、2018年4月から日本政府は「返済のいらない奨学金」を開始することも同番組で紹介されていた。
さてここでクイズ。
Q. 日本の奨学金を英語で言うと?
scholarshipと即答した人は、この引っ掛け問題にまんまと引っかかった人。
確かに、和英辞書にも「奨学金」は以下のように訳されており、scholarshipもそのうちの一つに挙げられているので完全な間違いではない:
bursary〈英〉(大学の)
burse exhibition〈英〉(大学が学生に与える)〔奨学生をexhibitionerという。〕
schol〔【語源】scholarshipの省略形〕
scholarship(大学の)
scholarship money
stipend
student grant
student loan
studentship〈英〉(大学の)
イギリス英語とアメリカ英語で異なるので、この辞書には両方の様々な訳語が掲載されているが、アメリカで「奨学金」と言うと、だいたい次の4つの言い方が使われているのが一般的だ。
- scholarship: 最も一般的に「奨学金」と言う場合に使われることが多い
- stipend:大学院生が学部生の授業を受け持つ労働の対価として受け取る「俸給」などの意味で使われることが多い
- fellowship:大学院生への奨学金や、特別研究員への奨学金などに使われることが多い
- grant:大学や政府機関が研究プロジェクトに対して与える研究助成金や補助金
そしてこれら4つの「奨学金」に共通することは、いずれも給付型で返済する義務がないということ。つまり、日本で131万人が利用している「奨学金」は、英語に訳すとscholarshipでもなく、stipendやfelloshipでもないのだ。日本で受け取る貸与型の奨学金をscholarshipと訳してしまうと、それは給付型で返済義務のないものだと勘違いされてしまい誤訳になってしまう。
返済義務のある日本の「奨学金」は、英語に訳すとstudent loan、つまり学生ローンだ。しかしアメリカの学生ローンには利子がつくことがほとんどで、日本のような無利子の「奨学金」は稀。無利子の学生ローンは、"a no-interest student loan"や"a 0% interest student loan"と訳すことができる。
学力が審査対象にもなる日本の奨学金を、単純にa student loanと訳してしまうと、せっかくの「奨学金」の威厳が消えてしまうのが残念ではあるが、その本質は学生ローンであり、アメリカの返済義務のないscholarshipに比べると劣ると言わざるを得ない。
一方、日本語の辞書で「奨学金」を引くと、以下のように定義づけされている。
1 すぐれた学術研究を助けるため、研究者に与えられる金。
2 奨学制度で、貸与または給付される学資金。
日本では返済義務がある「貸与」も、返済義務のない「給付」もともに「奨学金」という定義となっている。ここにアメリカ英語のscholarship(返済義務のない給付型の奨学金)との齟齬が生じている原因になっている。
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それでは、給付型と貸与型が混在する日本の「奨学金」を、より正確に言い表す英語は何だろうか?それはfinancial aid(財政的援助)だ。この用語はscholarship、stipend、fellowship、student loan全てを含んだ学生向けの金銭的援助を示す包括的な単語で、大学の事務所にも"financial aid office"として存在している。(大学によっては、貸与型をfinancial aid、給付型をscholarshipと区別しているところもある。)
学生は、少額の給付型奨学金、学生ローン、授業料免除などを組み合わせて学生生活を乗り切る人たちが多く、これらをひっくるめて"financial aid package"と呼んでいる。
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アメリカの奨学金は基本的に返済義務のない給付型と聞くと、アメリカの学生は恵まれていると思うかもしれない。しかし大学の授業料が日本に比べて桁違いに高いアメリカでは、奨学金だけでは賄えず学生ローンに頼る学生が多く、日本以上に社会問題になっている。
2018年1月の報告によると、4400万人のアメリカ人が1兆4800億ドル(約148兆円)にのぼる学生ローンの借金を抱えている。これは2016年に卒業した大学生全員が一人あたり平均で$37,172(約370万円)の借金を抱えて卒業している計算になる。これは前年比で6%以上の上昇。学生ローンを使わなかった学生もいるため、実際に学生ローンを利用した人の借金の平均額はこれ以上ということになる。
給付型の「奨学金 = scholarship」と貸与型の「学生ローン = student loan」を明確に分けて使われているアメリカですら、学生ローンの借金が膨れ上がって社会問題になっている。給付と貸与を混同して「奨学金」という曖昧な言葉が使われている日本の学生は特に、「奨学金」という響きに惑わされることなく、本質は学生ローン、つまり返済義務のある借金であることを自覚して借入計画を立てる必要がある。
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