英語を話す外国人の増加はアメリカ人にとって脅威ーNYタイムズ紙に寄稿文
パリに旅行に行っても、フランス人は気位が高いので英語で話してくれない、というのは昔のことのようです。アメリカ人ライターのパメラ・ドラッカーマンさんがNYタイムズ紙に面白い意見記事を寄稿していました。
この夏、パリを訪れるアメリカ人観光客は、ウェイターや、パン屋の従業員、タクシーのドライバーまで、積極的に英語で話そうとしてくるのを体験するだろうと書いています。中には、ほぼ完璧な英語で話しかけてくるフランス人もいるでしょうとあります。
しかも、フランスだけではなく、ヨーロッパ大陸の各国で、急激に多くのヨーロッパ人が英語を非常に上手に話せるようになってきているそうです。
世界中の成人を対象に、英語の習熟度を測定するEF English Proficiency Indexというオンライン・テストがあります。
そのサイトを見てみると、日本は世界で49位。
一方、ヨーロッパの「英語習熟度」は、軒並みハイレベルです。特に北欧とドイツ語圏・オランダ語圏のレベルが高く、次が東欧とポルトガル、そして下位にはフランス・イタリア・スペインなどのラテン諸国が続いています。パッと見ただけで青や緑がほとんどを占めています。
ヨーロッパに比べて、当然、アジア地域の英語習熟度は見劣りがします。黄色やオレンジの国がほとんどです。日本はアジア21カ国中、11位のど真ん中。
この英語習熟度テストは2011年から運用が始まったとあり、「レベルが高い」もしくは「非常に高い」というトップレベルの英語の習熟度である国は合計27カ国ある中、そのうちの22カ国がヨーロッパ諸国となっています。言語学上、英語と同じ、もしくは似た語族に属するので、ヨーロッパ各国の人々が英語が上手というのは当然です。
ヨーロッパの中で、フランス人の英語力はまだ下位ではあるものの、ライターのパメラ・ドラッカーマンさんによると「フランス人は自分たちの英語を改善するのに必死」だそうです。
ヨーロッパでは第2次世界大戦以降、英語が共通語として話されてきているため、特に若者の間で非常に上手に英語を話す人が増えてきているとあります。特にスウェーデンのストックホルムやスロベニアなどでは、ネイティブに近い英語を話す若者がますます増えています。現在、大陸ヨーロッパの小学校では80%の学生が英語を学習していて、これは2004年の60%から20ポイントも上昇しています。そして高校では、94%の学生が英語を選択して学習していて、その他の外国語を全て足した人数より多いそうです。
さらに若者が英語が上達している理由は、ヨーロッパ人は英語のテレビ番組や映画をよく見ていることも挙げられます。ヨーロッパの中で大国であるドイツやフランスは自国の言語によるテレビ番組や映画があり、また英語の(外国語の)映画やテレビは自国の言語に吹き替えられているのが通常です。それがフランス人の英語が他の国に比べて後塵を拝している理由かもしれません。(ドイツ人は英語の習熟度が高いというテスト結果が出ていますが、一歩田舎の町に行ったり観光業とは関係ない人たちと話をすると、途端に英語が通じなくなります。)
特に最近は、ネットフリックスがヨーロッパでも人気で、アメリカのドラマや映画を、英語のまま字幕付きで見る若者が増えているのも、彼らの英語が急激に上達している理由でしょう。
また、オランダでは今年、英語のみで開かれる法廷が設置されたそうです。オランダ語がわからない外国人でも、オランダでビジネスがしやすくなるための政策のようです。
英語がネイティブではない人でもスムーズに意思の疎通ができるように、簡素化された英語も生まれているようで、そうした英語のことをGlobish(GlobalとEnglishを掛け合わせた造語)と呼ぶそうです。
パリやコペンハーゲン、ベルリンなど欧州大陸の主要都市でレンタル・オフィスに行くと、フリーランスで旅行しながら仕事をしている世界各国の若者たちが、流暢な英語でやり取りする姿が日常的になっています。
英語がネイティブの人にしてみれば、外国語を学習する必要がなく良いニュースに思えるかもしれません。しかし、ライターのパメラ・ドラッカーマンは脅威にもなると主張しています。
オランダ人の10代の若者からルーマニア人ハッカーまで英語を完璧に習得するということは、イギリス人やアメリカ人にとって何を意味するのでしょうか?
アメリカの大学は注意するべきです。ヨーロッパの大学は、英語で受講でき、授業料も低く、しかもアメリカの大学よりも短期間で学士課程と修士課程を終えることができる学校が急速に増えているということにアメリカ人は間も無く気がつくでしょう。(2009年、大陸ヨーロッパで英語により修了できる学士課程は55件だったのが、2017年には2900件にまで急増しています。)
(中略)
私たち(英語のネイティブ・スピーカー)はターゲットにされています。世界各国の人々が素晴らしい英語を話すということは、英語を使っている社会はますます簡単に「解読」し悪用することができるようになります。
その一方で、良いアイディアは(英語により)素早く広まることもできます。科学論文は長い間、ほとんどの場合、英語で執筆されてきました。そして現在、英語を話すことがムーブメントになっています。この春、16歳の英語を話すスウェーデン人が、気候変動のために立ち上がるよう世界中の子供達に勇気を与えました。(リスボンからイスタンブールまで、自宅で手作りしたメッセージ・ボードは英語でした。)
ネイティブが話す英語は、もはや死守するべきお手本ではなくなってきています。ほとんどの人たちは、他のノン・ネイティブの人たちと意思疎通するために英語を学習しています。彼らの教師も、英語がネイティブではない人が多い状態です。そのため、彼らは英語の決まった言い方や熟語をあまり学習していません。言語学者のジェニファー・ジェンキンス博士は、イギリス人のテレビ・レポーターが、イタリア人のオペラ歌手に対して、英国までの旅行は「順調に進みましたか(going swimmingly)?」と質問したところ、このイタリア人歌手はその質問が理解できず混乱した様子だったことを例に出して説明してくれました。また、EU会議では、英語がネイティブではない参加者たちは互いの英語のスピーチを理解できるのに、イギリスやアイルランドからの参加者が登壇すると、翻訳機のスイッチをオンにするとも説明しています。
最近アイルランドで開催された「世界英語(World Englishes)」会議では、「新たな種類の英語としてのエジプト英語」や「カザクスタンの言語学的地平線における英語」というセッションも開催されました。チューリッヒ大学の言語学者、マリアン・フント博士は、“we need to discuss about this”や“I want some advices”といった、典型的な間違いが、ネイティブが話す英語にも入り込んでくる可能性があると語っています。
ネイティブ・スピーカーは競争力を失ってきています。いまだにわずかな数の職業は完璧に英語を話すことを必要としていますが、民間企業ではネイティブではなくても十分上手な英語を話すことが基本的な要件になってきています。EF English Proficiency Indexのケイト・ベルさんは、「それはエクセルを使えるのと同じようなものです。英語が話せるのは誰でも持つことができるスキルの一つでしかありません」と語る。
英語だけで育った人たちは、英語がどこでも話せるようになっていることに安心して、他の言語を学ばなくてもいいと思っています。しかしそうではありません。私はアムステルダムで、全員が素晴らしい英語を話すディナーに参加したことがあります。しかし、私が数分テーブルから離れると、全員がオランダ語にスイッチして話していました。もし私たちが知っているのが英語だけだとしたら、外の世界で私たちについて何を話しているのか知るすべが無くなってしまいます。
私が中高生の頃は、英語がネイティブだったら英語を勉強しなくてもよかったのになと恨んだものです。しかし英語がネイティブの人にしてみると、ますます多くの人々が上手な英語を話し始めることは脅威となっているようです。言語だけで国のアイデンティティが保てないというのは、日本語環境とはかなり異なる状況です。
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