アメリカに住んで初めてわかった日本の英語教育の問題:「シマリス」は「リス」じゃなかった!
一般的に、アメリカ人はこの動物をchipmunk(チップマンク)と呼びます。
かく言う私も、日本で受けた英語教育の中でsquirrelと言う単語は「リス」として学んだ記憶しかなく、シマリスもリスの仲間であることに違いはないので、アメリカに来るまでてっきりシマリスもリス(squirrel)の一種と考えてきました。
ところが渡米して間もないある日、アメリカ人の知人の家に呼ばれた時、裏庭にいる野生のシマリスをみて、
"There's a cute squirrel"(「可愛いリスがいるね」)
と言ったところ、知人から、
"That's not a squirrel, but a chipmunk"(「あれはリスじゃなくてシマリスだよ」)
と訂正されてしまったのです。
難しいRとLの発音もできるようになり、自信満々にSquirrel!と口にした矢先に誤りを訂正されてしまい、一人返す言葉もなく黙ってしましました。(まさにこの時が、日本で自分が受けた英語教育に対して疑念が芽生えた一瞬だったかもしれません。)
日本語で「あれはリスじゃなくてシマリスだよ」と言うと、「シマリスもリスでしょ!」と反論する余地がありますが、英語では明らかにsquirrelとchipmunkは違うものとして認識されているのです。
アメリカの子供向けアニメ映画に『アルビンとチップマンクス』というのがあり、まさにこのシマリスがアニメキャラとして登場します。そして2007年に公開された同映画の邦題は『アルビン/歌うシマリス3兄弟』と厳密に訳されていて、「歌うリス3兄弟」とは訳されていません。
たかがリスの呼び方くらいと思うかもしれませんが、侮るなかれ、こうしたわずかな知識の欠如や英語の誤解が積み重なって、相手に与える印象を大きく損なってしまうのです。「君はsquirrelとchipmunkの違いすらわからないのか」と。
【squirrelの発音も含めて音声でもご紹介しています↓】
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アメリカで生活すると、正しい英語、そして高等教育を受けたことを感じさせる英語を使うことの重要性が身にしみてわかってきます。移民が多く、多人種国家のアメリカでは、どのような英語を話すかが、その人の「アメリカ人度合い」や「教育レベルの高さ」を測る尺度として第一印象を決めるのに大きな役割を果たしているのです。
例えば、どのような英語を話すかは、洋服になぞらえることができるかもしれません。日本でも、きちんとした身なりで外出する時は、そうでない時に比べて他人からの扱われ方が格段に丁寧になると思います。しかもアメリカでは、日本以上に身なりや話し方によって扱われ方が違ってくるのです。
アジア人としてアメリカで生活をしていると、最初から英語のうまく話せない外国人(もしくは移民)と勘違いされて対応を受けることがあります。スーパーのレジや、レストラン、空港のチェックイン・カウンターなどでそうした経験があります。しかし、最初の挨拶で外国人訛りのない英語でスムーズな返事ができると、相手の態度がガラリと変わりフレンドリーになることがしばしばあります。これはビジネスの現場でも顕著な傾向です。
これは英語だけに限ったことではありませんが、言葉とは明示的な意味の伝達だけではなく、言外の情報も相手に伝えるのです。英語は、日本語よりも話者の社会階層や教育レベルを露呈させる言語と言えるかもしれません。
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筆者はもともと日英バイリンガルではなく、大学卒業まで日本で日本語による教育を受けたため、大学卒業後にアメリカで英語による生活をスタートして、初めて日本で学んだ英語の足りない点や間違った所が見えてきました。
例えば、日本の学校で「英語には日本語のような敬語がない」と教わりましたが、実際には英語にも丁寧な言い回しがあります。英語には、日本語のように「言う」「申し上げる」「おっしゃる」のような決まった置き換えがないぶん、文の組み立て方や流れ、単語の選び方などで丁寧さを醸し出すテクニックが必要になるのです。決まった敬語への変換ができない分、英語で丁寧な表現をマスターする方が難しいと言えるかもしれません。
(日本の英語教育で教わる丁寧な表現と言うと、Do you mind〜?やCould you please〜?、May I〜?といった表現を学びますが、こうした紋切り型の単純表現に頼らずに丁寧さを伝える文章こそが実践で使える丁寧な英語なのです。)
実際、同僚の日本人は、中学生まで英語圏での海外生活を送った後、日本の有名私立大学を卒業して華々しいキャリアを築いてきた人だったのですが、英語で丁寧な文章が書けず苦労していました。彼女はeメールを何度送っても、パートナー企業の幹部から返事がもらえなかったことがあったのです。私が彼女の代理としてメールを送ると、数日後にその幹部本人から返事が来ました。その後、この幹部はメールを受け取ったその日のうちに返事をくれるようになりました。
また、別の日本人の同僚は、日本の大学の英文科を卒業したというのに、「because」の発音を「ビコーズぅー」と、最後に「ぅー」と言う母音を必ず残す人がいたり、また別の日本人の同僚は、経済学用語のイールド・カーブ(yield curve)の「イ(Y)」の発音ができず、「yeast(酵母)」の発音も「east(東)」と同じになってしまいアメリカ人に指摘されたりと、日本の英語教育の「痛い現場」を目にすることは日常茶飯事です。
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このサイトでは、日本の学校では教わらない英語(もしくは間違って教えられる英語)から、アメリカでよく使われる英語表現などを幅広く取り上げていく予定です。また、英語から見えてくる社会情勢や習慣、文化、経済、政治など、硬軟織り交ぜて発信していきます。
【補足】英語でsquirrel(リス)と言うと、縞模様のないこのようなリスのことを指します。アメリカに広く生息しており、多くの都市部の公園などで目にすることができます。近年ペンシルバニア大学のエティエン・ベンソン教授が発表した論文によると、アメリカのリスは、19世紀初頭に人工的に公園に放たれて増殖したのだそう。意外とアメリカのリスの歴史は浅いのですね。
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