日本で教える英語はアメリカ英語かイギリス英語か?

日本の英語教育の欠点の一つは、アメリカ英語とイギリス英語を明確に分けずに教えてしまっていることだろう。その結果、日本で英語教育を受けた日本人は、イギリス英語とアメリカ英語を混同して使ってしまい、いつまでたっても英語がうまく話せない国民というレッテルを貼られることにつながる。

 たとえば、consumer(消費者)という単語をどのように発音するだろうか?「コンシューマー」と発音すればイギリス式、そして「コンスーマー」と発音すればアメリカ式だ。

 この単語はそのまま日本語でも「コンシューマー」という表記で新聞記事などでよく見かける。逆に、「コンスーマー」とアメリカ式の発音で表記しているものは少数派だ。

 グーグルで「コンシューマー」と検索すると616万件のヒット件数があるのに対し、「コンスーマー」と検索するとわずか2万8,300件。「コンスーマー」の検索結果は「コンシューマー」のわずか0.46%しかなく、ほぼ皆無に等しい。少なくともこの単語に関しては、圧倒的に大多数の日本人にイギリス式の発音が浸透していると言えるだろう。



(画像:http://www.google.comより引用。)


 さらに、日本の政府官公庁の英語表記もイギリス式なのをご存知だろうか。厚生労働省のホームページを開くと、冒頭に小さく"Ministry of Health, Labour and Welfare"と英語表記がある。「労働」にあたる"Labour"のつづりはイギリス英語で、アメリカ英語では"Labor"とつづる。アメリカの労働省は、Department of Laborだ。

(画像:http://www.mhlw.go.jp/より引用。)

日本のテレビ番組を見ている時も、「判定」というテロップの下にわざわざ英語で"Judgement"と併記しているのを見かけることがある。これもイギリス式だ。アメリカ英語では"Judgment"とつづり、真ん中の"E"がない。

 しかし、日本の中学、高校で使われていた英語の教科書は全てアメリカ英語だったと記憶している。センター試験をはじめとする英語のテストも文法から読解問題、そしてリスニングまでほぼすべてアメリカ英語だった。それなのに日本人の多くがなぜイギリス式に「コンシューマー」と発音するのか謎だ。

 アメリカ人とのコミュニケーションで、「コンシューマー」と発音すると相手はかなりの違和感を覚えるだろう。文面でも、イギリス式に"judgement"や"labour"と綴ると同じように違和感を与えてしまう。これが完全にイギリス英語で統一されていれば良いのだが、アメリカ英語と混ぜて使ってしまうと「アメリカ英語とイギリス英語の違いすらわかっていない英語初級者の外国人」と思われてしまう。(実際、英語上級者やネイティブ・スピーカーであればイギリス英語とアメリカ英語を混ぜて利用はしない。)特にビジネス文書や大学への願書など、正式な文書の場合、どちらかに統一することはスペルミスをなくすのと同じくらい非常に重要だ。

 英語は本家本元のイギリス式が存在しつつ、文化的にも経済的にも大国のアメリカ式が幅をきかせており、各国で「正式な英語」が異なるためどれをお手本にすれば良いか迷ってしまう言語なのは確かだ。この他にもカナダ式、オーストラリア式など種類が多い。しかし英語学習を進める中で、いずれ「どの英語」を自分の英語とするのか選ばないといけない。イギリス英語とアメリカ英語の明確な違いを意識しないまま、ズルズルと混同した使い方では初級者止まりだ。

 日本の英語教育は、教科書ではほぼアメリカ式の英語を採用しているように見えるが、JETプログラムなどで日本に招かれる英語の補助教員は、イギリス、カナダ、アメリカ、オーストラリアなど様々な国や地域の人たちだ。これから小学校低学年にも英語教育を必修化していくそうだが、もし本気で英語が話せる日本人を増やしたいのなら、日本の英語教育は、かなり早いうちに意識してどの英語を学ばせるのか、はっきりさせる必要があるだろう。

 一度どの英語を自分のものにするのかはっきりさせると、英語を話す際のアイデンティティーの確立にもつながるというメリットがある。自分はアメリカ式の英語教育を受けてきたと自信を持って、イギリス人と会話する。また逆に、イギリス英語をマスターすれば、それを自分史として背負ってアメリカ人と対話する。英語で会話をする醍醐味は、自分の話す言葉(英語のアクセントや単語、スラング、言い回し)が名刺代りになって話が盛り上がることだろう。

 昨年オーストラリアを訪問したとき、現地でオーストラリア人、イギリス人、(そして数多くのドイツ人)と会話した時の相手の反応が興味深かった。この経験についてはまた別の機会に紹介することにしよう。


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