TikTokがアメリカでもブームにーーただしTikTokの人気者は「痛い」人たち?

日本の10代の間で人気のショート動画アプリTikTok(ティックトック)が、アメリカにも上陸。今年になって、アメリカのニュースサイトNBC Newsに、アメリカで人気のTikTokスターとしてローレン・ゴッドウィン(Lauren Godwin)さんとセバスチャン・ベイルズ(Sebastian Bails)さん(共に19歳)へのインタビュー記事(無料記事)が掲載されていた。今月3月には、ニューヨークタイムズ紙もTikTokについての記事(有料記事)を掲載している。主要メディアが10代の間で瞬く間に広がったブームに気が付いて全米の大手メディアも報道し始めたようだ。(Screenshot: nbcnews.com)

しかし、NBC Newsのインタビュー記事でTikTokスターは、cringe(クリンジ)とschadenfreude(シャーデンフロイデ)の対象として紹介されている。今回はこの二つのキーワードをご紹介しよう。

ローレン・ゴッドウィンさんとセバスチャン・ベイルズさんは、二人で協力してTikTok動画をアップして人気になった。セバスチャン・ベイルズさんは、アメリカ版「りゅうちぇる」といった印象。肌を小麦色に焼き、髪も脱色し、男性ながらメークもバッチリ決めている。「メークなしでは絶対に動画に出たくない」とインタビューでも答えている。

2016年10月に中国版がリリースされ、日本では2017年夏にリリースされたTikTokだが、アメリカでも昨年(2018年)から急激に人気になっており、日本と同じように中高生の間で人気がある。そのほかにも米軍の兵士が、派兵先の戦地キャンプで撮影したTikTokの動画も人気になっていたりするのがとてもアメリカ的。(日本の自衛隊員や警察官が、制服を着たままTikTokにダンス動画や口パク動画を投稿しているとは聞いたことがない。)

ローレン・ゴッドウィンさんとセバスチャン・ベイルズさん二人へのインタビュー動画はここで視聴することができる。(もしかすると米国内以外からのアクセスは制限されているかもしれない。)


しかし、NBC Newsの記者は、「TikTokスター」のローレン・ゴッドウィンさんとセバスチャン・ベイルズさんの「人気」は、憧れからというより嘲笑の対象として「人気」があるという分析をしている。つまり、彼らの動画を視聴している人たちは、彼らのことを「痛い人たち」と見ていて、笑い者として見ているという。

NBC Newsの記事のタイトルも、"Cringe and cash"、つまり『「痛い(と笑われること)」とお金』というタイトルになっている(みんなには「痛いよね」と笑われながらも、視聴回数は増えて収入が入ってきているという意味)。

日本のネット用語でも「痛い」とよく言うように、アメリカのネット用語にもそれと似た「cringe(クリンジ)」という新語が発明されて使われている。特にTikTokが登場してから使われるようになった新語のようだ。ただし、もともとcringeという単語は存在し、本来の意味は「〔恐怖などで〕縮みあがる、すくむ、ドン引きする」。

新語辞典には、「(恥ずかしくて)痛い」という意味のcringeを使った用例として、次の一文が掲載されている。

I was watching YouTube and I found a cringe compilation and it was 90% Tik-Tok memes(YouTubeを見ていたら「痛い」まとめ動画を見つけて、そのうちの90%がTikTokミームの動画だった。)
そしてcringeな(痛い)人や彼らの動画を見て嘲笑しながら楽しむことを、英語ではschadenfreude(シャーデンフロイデ)という。

これはもともとドイツ語で、schadenが「損害」、freudeが「喜び」の意味(出典)で、「他人の不幸を喜ぶ気持ち」を指す。「この人たち痛いよね」というcringeを楽しむ行為が、schadenfreude(シャーデンフロイデ)ということになる。

schadenfreude(シャーデンフロイデ)は、別の言い方をすれば、「他人の不幸は蜜の味」という、日本語でもよく言われる人間の屈折した心理を言い当てた言葉となる。

英語では、専門用語やインテリ層がよく使う気取った言葉に、外国語から取り入れたものが多くある。先日も、日本語が語源の英単語を紹介したが、歴史的に見ると、英語が取り入れた外国語は、フランス語、ドイツ語、イタリア語、ラテン語、イディッシュ語(ヘブライ語、ドイツ語、スラブ語が合わさってできた言語で、米国や東欧などのユダヤ人移民の間で話される)などからが多い。

もしアメリカ人と英語で会話をしていて、他人の不幸を楽しんでいる人がいたら、"that's schadenfreude"と指摘してみるといい。英語がネイティブでない人が、そんな知的で高度な言葉を知っていることに非常に驚かれるはずだ。

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