香港の「逃亡犯条例」改正に反対する大規模デモ ー それを報じるアメリカのメディアが使う単語"extradite" とは?

ここ数日、日本も含め、アメリカのメディアでも大きく取り上げているのが香港の大規模デモだ。香港にいる犯罪容疑者を、中国本土に引き渡す「逃亡犯条例」の改正に反対するデモで、もし改正が可決されれば、香港の自由が失われると懸念されている。これは香港人だけでなく、香港に滞在している外国人や香港の空港などでトランジットする外国人にも適用されるので、人ごとではない事態だ。

アメリカ人は、たとえ短期の旅行でも中国本土を訪問する場合は、アメリカの中国大使館や領事館で事前に観光ビザを取得する必要があるが、香港を訪問するときはそれが必要なく、米国のパスポートだけで訪問できる。そして米国から東南アジアを訪問する場合、距離が遠いため、一度、日本や香港の空港で乗り継ぎをして移動する場合が多い。もし香港の「逃亡犯条例」が改正されてしまうと、乗り継ぎだけで香港の空港に降り立ったアメリカ人(そして日本人)が、中国政府に逮捕され中国本土に移送されてしまうということも将来的に起こりうる。

2013年に、エドワード・スノーデンがアメリカの国家機密情報を持ち出して米国を脱出した際、香港に潜伏していたことを思い出す人もいるのではないだろうか。そのことを突き止めた米国政府は、香港政府に対してスノーデンの引き渡しを求めたが、香港政府は見て見ぬ振り(?)をして、スノーデンがロシア行きの飛行機に搭乗して香港を脱出することを黙認した。もし香港の「逃亡犯条例」が改正されれば、こうした場合、ほぼ確実に中国が口出しをして容疑者の引き渡しを香港政府に要求することが予想される。

その時のことを詳しく描いた映画に、オリバー・ストーン監督の『スノーデン(Snowden)』や、ローラ・ポイトラス監督の『シチズンフォー スノーデンの暴露(Citizen Four)』がある。『シチズンフォー スノーデンの暴露(Citizen Four)』はドキュメンタリー映画のため、香港に潜伏しているスノーデン本人をリアルタイムでインタビューしている。最初にオリバー・ストーン監督の『スノーデン』を見て、それから『シチズンフォー スノーデンの暴露』を見るとスノーデン事件の内側がよくわかる。

ちなみに、スノーデンが話す英語は、非常に明瞭な発音で、しかも理路整然としていて英語のリスニングの勉強にもうってつけだ。知識をひけらかさなくても、変なマウンティングをしなくても、話し方や受け答えだけで、頭脳がキレッキレの高IQというのが如実に現れている人物だ。

『スノーデン(Snowden)』の予告動画



シチズンフォー スノーデンの暴露』の予動画

前置きが長くなったが、英語ではこの「犯人引き渡し」のことを"extradite" という一言で言い表す。"extradite"は動詞「犯人を引き渡す」という意味で、名詞「犯人引き渡し」は"extraditition"。

日本語のように「犯人・容疑者」を意味する「suspect」という名詞も、「引き渡す」を意味する「turn someone in」という動詞も使わず、"extradite" と一言で言い表す単語があるというのが、英語は日本語とは非常に異なるというのが強く感じられる良い例だろう。

そして今回の香港の大規模デモを報道する全米のニュースでは、この"extradite" という単語が共通して見出しに使われている。
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そしてこの香港の大規模デモの陰で、中国への「犯人引き渡し」で批判されているのがスペインだ。先週、スペインのマドリードから94人の台湾人容疑者が北京に移送された。これは、スペインのマドリードを拠点に、中国本土の中国人を狙って詐欺行為を続けていた台湾人の電話詐欺集団のメンバー。被害総額は1700万ドル(約180億円)と報道されている。2016年12月、スペイン警察によって237名の容疑者が逮捕され(269名という報道もある)、そのうちすでに225名が中国に引き渡されている。この中国に移送された225名のうち218名は台湾人。

中国政府は、詐欺の被害者が全て中国本土の中国人であることから、台湾人容疑者を全員、中国本土に移送するよう、スペイン政府に引き渡しを要求し、それにスペインの司法機関が応じた結果。

実は、スペインはヨーロッパの中でも中国との「容疑者引き渡し条約」をいち早く締結した国で、2005年に条約締結し、2006年に批准している。

これに対して、台湾政府はもちろんのこと、人権に関わる国連の高官も、深刻な懸念があると表明している

「容疑者引き渡し」といえば、中国のモバイル機器開発企業のファーウェイのCFOが、カナダのバンクーバーで拘束されたが、アメリカはカナダ政府に対して彼女をアメリカへ引き渡すことを求めている。ここでも「容疑者引き渡し(extraditition)」という用語がメディアのキーワードとして報道されている。これからも、「容疑者引き渡し(extraditition)」という単語がニュースの見出しを賑わせそうだ。

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