「東洋人」を意味する差別用語"slants"

アメリカの最高裁判所は今日、「東洋人」を指す差別用語"slants"をグループ名に持つダンス・ロック・バンドThe Slantsの商標登録を、政府が拒否することはできないとする判決を下した。たとえ差別用語だったとしても、商標登録を政府が拒否することは、言論の自由を保障した米国憲法修正第1項に違反するという判断からだ。

日本人に対する差別用語"Jap"(ジャップ)は聞いたことあるだろう。この他にも“Heeb”(ユダヤ人)、“Dago”(スペイン、ポルトガル、イタリアなどのラテン系)、 “Injun”(アメリカン・インディアン)、“Squaw”(アメリカン・インディアン女性)、"Towel-head"(中東系の特に男性)、"Paki"(パキスタン人やインド人)など、英語には少数民族や移民を差別的に呼ぶ言い方が数多く存在する。かつて大英帝国として世界を植民地化したイギリスの、そして多民族国家として成長し続けるアメリカの負の遺産だろう。

外国語を学ぶとき、その言語を話す人たちがどういった差別意識を持っているかを知ることは、避けては通れない通過儀礼のようなものだ。英語を習得するということは、日本語だけの世界に生きていれば聞くことがないような差別に対して、フィルタなしで直截的に触れることも意味する。実は、英語を学ぶということは、「世界の人と友達になれる」などという生易しいものではないのだ。自分に向かってくる刃が存在しうる、そんな世界に飛び込むことをも意味している。

さらに英語が特異なのは、自分のことを意味する差別用語が存在しうるということだ。例えば、日本語を母国語として話す人たちは基本的に日本人しかいないため、わざわざ日本人、つまり自分たちのことを侮蔑的に呼ぶ言い方は日本語の中には存在しない。しかし多民族国家のアメリカでは、アジア系アメリカ人たちは、自分たちのことを侮蔑的に呼ぶ"slants"という言い方が英語という「母国語」の中に存在している。

冒頭の写真を見てわかる通り、The Slantsのバンドはポートランド出身のアジア系アメリカ人たちによって構成されている。自分たち(アジア人)のことを侮蔑的に呼ぶ言い方"slants"を、あえて自分たちのバンド名にしているのだ。この理由について、バンドのメンバーは次のように説明している
「The Slantsは、(バンド名にSlantsを使うことで)誰も傷つけるつもりはなかったと語っている。むしろ、アジア人に対する侮蔑的な言い方を取り入れることで、それを(ポジティブな意味へと)変革しようとしたのだと」
"The Slants said they did not intend to disparage anyone. Instead, they said, they sought to adopt and reform a disparaging term about Asians . . ."

アフリカ系アメリカ人男性も同じように、自分たちのことを指す差別用語"nigger"を、あえてお互いを呼び合う時に使うことがある。ゲイの人たちの中にも、"queer"という同性愛者を指す差別用語をあえて自分たちを呼ぶ時に使う人たちがいる。差別用語を自分たちが積極的に取り込むことで、本来の意味を薄めて前向きな意味へと昇華させようとしている。

しかし、彼らが使っているからと言って、黒人ではない人がアフリカ系アメリカ人のことを"nigger"と呼ぶのは今でもご法度だ。ゲイではない人がゲイの人たちを"queer"と呼ぶのもやめておいたほうがいい。同じように、アジア系アメリカ人だからこそ、自分たちのバンドをThe Slantsと呼ぶことがかろうじてcoolなのだ。


Photo courtesy: Casey Parks | The Oregonian/OregonLive

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