オンラインショッピングでカモにされてしまった話:アービトラージ(arbitrage)とスカルピング(scalping)

まさか自分がこんなに簡単にカモにされてしまうとは思いもしなかった。オンライン・ショッピングをするときは、ネットで価格情報を検索してなるべく安いところから買うというのが常識だろう。先日、しっかりインターネットで価格を調べた結果、同じ商品がアマゾンより4割も安いというのをeBayで見つけた。

アマゾンでの価格が税込みで約14ドル(送料無料)。それに対して、eBayでの価格が送料無料で約10ドル。わずか4ドルの差だが、3割引と考えると大きな差だ。しかも全く同じメーカーの同一商品なのだから多くの人が安い方を選ぶだろう。

eBayで見つけた同商品は個人売主が販売していたため、ちゃんと注文した商品が届くか不安があった。それが安い値段の理由でもあるのだろう。しかし、もしeBayに掲載された内容と届いた商品が異なる場合はeBayが返金を保証してくれている。しかもこの売主は同じ市内に在住しており、これまでの販売履歴も問題なく高評価が付いていた。

そしてeBayで注文してから2日後、早速注文した通りの商品が届いた。注文から商品が届くまで、全く問題ないスムーズな購入だった。

しかし、送られてきた包みの中にレシートが同封されていたのに気がついた。個人の売主から送られてくる商品にレシートは含まれないのが普通だ。気になってレシートを見たところ、発行主はLowe's。アメリカ国内でHome Depotと並ぶ日用雑貨や大工道具などの小売り大手だ。梱包を確認すると、送り主もLowe'sとなっている。

さらにこのレシートをよく見ると、eBayの売主がLowe'sのオンラインショップで商品を注文し、直接Lowe'sから商品が発送されてきたのだとわかった。そしてそのレシートに印刷された商品の金額が、税込み・送料無料で合計3.84ドル−−−−

まとめるとこうだ。

アマゾン価格 14ドル
eBay価格   10ドル ←アマゾンより3割安いと思ってこれを購入
Lowe's価格  3.84ドル ←実際はLowe'sで直接購入すればアマゾンより7割以上安かった

つまり、このeBayの売主は、3.84ドルの商品を10ドルでeBayで売り、その差額の6.16ドル(約700円)の利ざやを稼いでいたというわけだ。(ただし売主は、eBayへ手数料として売上金の数%を支払わないといけない)。

こういう異なる市場(お店)での価格差を利用して利益を得る取引のことを、英語でアービトラージュ(arbitrage)と言う。日本語に訳すときは、「裁定取引」とか「アービトラージ」と訳されているが、もともとフランス語が語源のため、英語でもフランス語に近い「アービトラージュ」と発音をする。

アービトラージュが成立するのは、市場に情報格差が存在する場合だ。もし私がLowe'sで3.84ドルで購入できると知っていれば、eBayの売主からは購入しなかっただろう。

アービトラージュはもともと金融用語で、為替相場や株式市場で、市場によって異なる価格が生じた瞬間に売買を成立させて利ざやを稼ぐことをいう。

例えば、円・ドルの為替レート、ドル・ユーロの為替レート、そして円・ユーロの為替レートがそれぞれ独立して取引されると、どうしても3者の為替レートの間で均衡が崩れる。その瞬間を狙って、安いレートで円でドルを買い、そのドルを売ってユーロを買い、そしてさらにユーロを売って円を買い戻すと、最初100円だったのが例えば105円になり、5円の利ざやが稼げると言う具合だ。

円(100円) → ドル → ユーロ → 円(105円)

実際は、そんなうまい話はすぐに市場に知れ渡って情報格差(為替レートの格差)はなくなり、それぞれの為替レートは互いに均衡を取るよう変動して利ざやは稼げなくなる。

* * *

今回、7割もの利ざやの存在に気がつかなかった理由はこうだ。

荷物に同封されていたレシートをよく読むと、eBayの売主が2種類の特典を利用していたことがわかる。1つは、50ドル分購入すると15ドル割引されるという特典。そしてもう1つは、Lowe'sで無料アカウントをオンラインで開設すれば送料が無料になるという特典だ。

しかも、商品の名前で価格を検索した際、Lowe'sは検索結果にヒットしなかった。そしてたとえLowe'sのサイトに行き着いていたとしても、普通に購入していれば送料6ドルが追加されてしまうため、これらの特典には気がつかず、結局Lowe'sでは購入していなかった可能性が高い。情報弱者になると損をするというのがまさに今回の出来事だった。

* * *

このeBayの売主のように利ざやを稼いで手っ取り早く儲けることを、アメリカ英語で「scalping(頭皮をはぐ)」とも言う。日本語でも育毛剤のコマーシャルなどで「スカルプ・ケア(頭皮ケア)」と言っているのを聞いたことがあるだろう。あのスカルプ(scalp)と同じ だ。そしてscalpingを行う人のことをscalperと言い、scalperを日本語に訳すと「ダフ屋」になる。ダフ屋もまた、チケットを正規価格で購入し、それに利ざやを上乗せして売りさばいている。

利ざやを稼ぐことを「頭皮をはぐ(scalping)」と言う、なんともグロテスクな英語本来の言い方があるのに、わざわざフランス語で「アービトラージュ(arbitrage)」と気取って言うのが、いかにもアメリカ人らしい。おそらくアービトラージュは、ウォール街の金融マン達が言い出したことだろう。

このように英単語で表現すると品がないようなことを、アメリカ人はよくフランス語に置き換えて言う。Pardon my French!(ペルドン・マイ・フレンチ!)と言うのも、言ってはいけない汚いことを言った後にアメリカ人がよく言う言い訳だ。

皆さまもオンラインショッピングで頭の皮を剥がされないようご注意ください。



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