東京都英語村「TOKYO GLOBAL GATEWAY」がオープンしても日本人の英会話力アップにはつながらない訳

「革新的な体験型英語学習施設」という謳い文句で、「TOKYO GLOBAL GATEWAY」が 2018年9月6日にオープンする。報道記事では以下のように説明されている:

「TOKYO GLOBAL GATEWAY」は、東京都内の国公私立小学校、中学校、高等学校、特別支援学校等の児童生徒約123万人を優先対象とし、授業や学校行事等で利用できる施設です。また、個人での利用や、他の道府県所在の学校等の利用も可能です。

ニュース番組でも紹介されており、アナウンサーが現地に赴いていち早く「体験型英語学習」を経験している様子が放送されていた。海外のホテルやレストランなどを想定して、英語が母国語の外国人が店員役となり、あたかも外国に行ったつもりになって英語で注文したりホテルを利用する体験ができる。

教室の中で教科書を元に、英語がネイティブでもない日本人の教師に教わるよりかは、何倍も生きた英語に触れる良い機会だと思う。

しかし、テレビ局のアナウンサーがたどたどしい英語でサンドイッチを注文する様子を見ていると、それに受け答えしている店員役の外国人が、非常に優しく、しかし異常にゆっくりとした英語で質問を聞き返しているのを見て、「これでは英語はあまり上達しないな」とある種の絶望感を覚えた。

日本の英会話学校で教えているネイティブの教師にも当てはまるのだが、基本的に日本にきて働いている外国人は、日本人に対して親切だ。日本人が英語が苦手なことも十分承知している。だから、たどたどしく、間違った英語を話しても、我慢強く親切に対応してくれる。返す英語も、ゆっくりと日本人でも聞き取りやすいように丁寧に発音してくれる。

だけどそれは生きた英語ではない。一度海外に出れば、早口で話す人も多く、忙しい店の店員などはゆっくり外国人の英語に付き合っている暇などない。早口で「今日のおすすめ」をまくしたてられ、二度聞きしようものなら無視して立ち去ってしまうこともある。

ましてや入国審査官などは不審者を水際で食い止めることが任務のため、親切などとは無縁だ。個人的な経験では、イギリスのヒースロー空港とアイルランドのダブリン空港の入国審査官が非常に無愛想ではなから人を犯罪者扱いしていると感じるほどだった。「仕事は?」「何しにきた?」と、ぶっきらぼうで失礼極まりない質問を浴びせてくる。またその言い方がキツイのだ。「訪問の目的は何ですか?」というような柔らかい言い方ではなく、まさに「何しにきた?」とつっけんどんな聞き方だった。「英語がわからなければこんな不快な気分にならなくてもすむのに」、と何度後悔したことか。

* * *

日本でいくら英語を勉強しても、アメリカの映画やドラマの会話がさっぱり聞き取れないというのは、日本で学ぶ英語が「温室・無菌室の英語」だからだ。

「TOKYO GLOBAL GATEWAY」も、まさに英語を学ぶ日本の小中高校生たちのために作られた「無菌室」という印象だ。英語がうまく話せない日本人たちに辛抱強く対応してくれる外国人だけが雇われている。

英語を学び始めた小学生や中学1、2年生くらいまでなら、このレベルの英語教育でも良いだろう。しかし若いほど英語の会話力はいち早く身につくため、小学生であれば英語のネイティブ・スピーカーと2、3年も会話を日常的に続けていれば、「TOKYO GLOBAL GATEWAY」で体験できる英語は卒業できるはずだ。

そして高校生にもなれば、同じスピードで話せなくとも、ネイティブの話す早いスピードでもその話す内容は理解できるようになっておかしくない。高校生であれば、「TOKYO GLOBAL GATEWAY」で話されている英語は異常にゆっくりでナチュラルではない、と感じるくらいにまでなってほしい。

* * *

10年ほど前にポルトガルに旅行に行った際、英語がほとんど通じなかったのを覚えている。首都のリスボンですら、英語がなかなか通じず、スペイン語とフランス語を織り交ぜながら意思の疎通をしたことを覚えている。しかし、昨年、久々にポルトガルを訪れる機会があり驚いた。特に若者が流暢な英語を話すようになっていたのだ。それもイギリス英語というよりは、むしろアメリカ英語に近い印象を受けた。

こちらがタドタドしいポルトガル語で質問しようとすると、Do you speak English?と、向こうから英語に切り替えてくる。ポルトガルはここ数年、観光立国として発展しており、外国からの観光客もうなぎ登りに増えている。リスボンで宿泊したホテルの受付の女性からも、「ポルトガルはここ数年でガラッと変わりました。外国からの観光客もとても増えました」と聞いた。いまだに英語があまり通じないお隣スペインとは大違いだ。

一方、2年前に同じ南ヨーロッパで観光立国のクロアチアに旅行に行った時、ポルトガルに比べると英語がまだ浸透しきっていないと感じることがあった。観光業に携わる人たちは比較的よく英語が話せたのだが、そんな中でも20代の若いウェイターが、こちらが英語で質問しても全てわかった振りをしてきたのだ。

「(料理に)チーズをかけましょうか?」とそのウェイターが英語で聞いてきたので、

"That'd be great"(いいですね=お願いします)

と返事をすると、一向にテーブルに戻ってくる気配がない。一緒に旅行をしていたアメリカ人の友人は、「彼、こっちが何を言ったのかわかってなかったと思うよ」と言ってきた。

そこで同じウェイターを呼んで、改めて英語で「チーズをお願いします」と言うと、すぐに持ってきてくれた。

英語で言う決まったセリフは覚えていても、相手が英語で話す内容は全然理解できないということがよくわかる出来事だった。そしてクロアチアのお隣、モンテネグロを訪問した時は、10代の青年がアルバイトでアイスクリームを売っていたのだが、英語が全く通じなかった。YesやNoも通じないレベルで驚いた。モンテネグロの中でも観光地として有名な場所で、外国からの観光客相手のアイスクリームのアルバイトがこのレベルかと。

あまりにも意思の疎通ができないので、彼の同僚であろう10代のアルバイト女性が助けにきてくれて、英語で注文を聞いて彼にモンテネグロ語で通訳をしてくれた。

彼女によると、モンテネグロの学校でも外国語の学習は必須で、ほとんどの学生が英語、もしくはロシア語を選択するそう。しかしモンテネグロでの英語教育は質が悪く、ほとんどの人が話せるようにはならないとも(どこかで聞いた話だ)。彼女に、なぜ英語が話せるようになったのか聞いてみると、「英語の映画やドラマをよく見ているから」という返事だった。彼女の英語はまだまだ荒削りだったが、意思の疎通は十分できるもので感心した。

* * *

観光地化が進むと、現地の人たちの英語レベルがアップするというのは世界共通だろう。日本も海外からの観光客が急増しており、数年前のポルトガルやクロアチアと同じ状況だ。

昨年、アメリカ人の友人を連れて長野県松本市の温泉旅館に宿泊したときも、そこの後継者の若社長が流暢な英語でもてなしてくれた。最近は海外からの観光客がよく泊まりにくると話してくれた。

人工的に作られた「無菌室」で英語を学ぶよりも、外国人がよく訪れる日本の旅館などでアルバイトする方が、何倍も早く生きた英語が身につきそうだ。


(画像はここから引用:https://prtimes.jp/i/35313/1/resize/d35313-1-240452-1.jpg

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